( ゚Д゚)<イヤッホオォォォォオオォォオオゥ!!!

「マーラは、ぼくを見てびっくりした。すぐに家へつれて帰って介抱したいと言った。ぼくは消耗しきって、そばに人がいることにさえ耐えられなかった。急いで別れを告げた。
「明日会おう」
 ぼくは酔っぱらいのようにふらふらしながら家へ帰るなり寝椅子にぶっ倒れ、麻酔薬でもかけられたように昏々と眠りこんだ。目がさめたのは夜明けだった。すばらしく気分がいい。起きあがると、公園へぶらりと散歩に出かけた。白鳥どもも生気をとりもどしつつあった。こいつらには乳嘴突起は全然ないんだ。
 苦痛がやむと、たとえ金がなくても、友人がいなくても、遠大な野心がなくても、人生はすばらしく見えるものだ。ただ楽々と呼吸し、急激な痙攣や発作もなく歩くだけでよかった。こうなると白鳥もひどく美しかった。樹々もそうだ。自動車ですらそうだ。生命がローラー・スケートにのって坦々とすべってゆくのだ。大地は孕み、絶えず空間の新しい磁力の場をかき乱していた。ちっぽけな草の葉の刃を風がいかに吹きまげるかを見よ! 小さな葉の刃の一つ一つが感覚をもっていた。あらゆるものが敏感に反応した。もしも大地が苦しがっていたなら、われわれは何をすることもできないだろう。天体は決して耳痛に苦しむようなことはない。たとえ内部で、いうにいわれぬ苦痛や苦悩に耐えていようと、天体は病毒には免疫なのだ。
 あとにもさきにも、ぼくは、はじめて定時よりも早く会社へ出た。いささかの疲労もおぼえずトロイ人のように根気よく働いた。約束の時間にマーラに会った。彼女は、きょうも公園のおなじ場所のベンチに腰かけて待っていた。」
ヘンリー・ミラー『セクサス』)