( ゚Д゚)<生活の畸形

「「それでね──」と私は続けました。「本当のことをいうと、君の極め球はすばらしいよ。しかしその極め球を単純に使いすぎる。どんなにすばらしくたって、それだけじゃ相手がミートしてくるからね。喰われちまうだけだ。もうひとつ、別の極め球を持ちたまえ。君のそのすばらしい身体に見合うような極め球をね。もちろん今からだっておそくない」
「たとえば、どんなことですか」
「そりゃ俺にはわからん。しかし、お母さんを見習いなさいよ。君は、子供の面倒を見ないとか、男をつくるとか、不満なようだけれども、お母さんはすごいよ。極め球が二つ以上ある。しかもどの球も、楽に投げられる球じゃない。すくなくとも自分の生活が奇形になるほどの苦しい球を身につけて武器にしてる。母親としてとか、女としてとかいう前に、人間としてプロだね。俺はその点を尊敬するんだ」
「世間じゃそういいませんね」
「そりゃ世間は彼女と直接ゲームをしてるわけじゃないからね。概念で片づけてるんだ」」
色川武大「雑婚」)