( ゚Д゚)<おっぱいの節度

「お人好しのグラングジエが、みんなといっしょに飲みながら、わいわいがやがややっていると、この世に生まれてきたわが息子が、ものすごい叫び声をあげているのが聞こえてくるではないか。「のみたいよー、のみたいよー、のみたいよー」と大声でせがむものだから、父親は、「おまえのはでかいんだなあ〔ク・グラン・チュ・ア〕」といった。いや、ここで捕捉しておくならば、「のど」がということである。そこに同席していた連中がこれを聞いて、子供の誕生にあたり、父親の口から発せられた最初のことばがそれならば、古代ヘブライ人の例にならって、ここはガルガンチュアと命名すべきだといった。父親はこれを承諾したし、母親もこの名前がとても気に入った。そこで、この赤子をなだめようと、たっぷりと一気飲みさせてから、洗礼盤のところまで抱いていき、よきキリスト教徒の習慣にしたがって、洗礼を受けさせたのだ。
 ところで、ふだん、この子にお乳をやるためには、ポーティーユとブレエモンの乳牛一七九一三頭があてがわれた。なにしろ、この赤子を養うには、大量のミルクが必要なのであって、国中を探しても、それだけ十分なお乳がでる乳母などは見つからなかったのだ。もっとも、スコトゥス派の博士のなかには、授乳したのは母親であって、毎回、その乳房からは、一四二樽と九杯分のおっぱいが搾りだせたのだと主張する面々もおられる。だがこれはうそっぱちである。この学説は、おっぱい的にけしからんものであり、敬虔な人々の耳をけがし、遠くからでも異端邪説のにおいがすると宣告されてしまった。」
ラブレー『ガルガンチュア』)