( ゚Д゚)<もう悪魔しか愛せない

「ミス・ボビットがぼくたちの家を訪れたのは、それからすぐあとだった。日曜日だったので家にいたのはぼくだけだった。みんな教会に行っていた。「教会の匂いって胸がむかつくわ」彼女は、前に身を乗り出し、両手を手前にきちんと組んでいった。「こんなこというからって、わたしが異教徒だなんて思わないでね、Cさん。わたしには経験があるからわかるの。神様もいるけど、悪魔もいるのよ。教会に行って、悪魔がどんなに罪深くていやしい馬鹿かなんて話を聞いたって、悪魔を手なずけることはできないわ。そうじゃなくて、イエスを愛するように、悪魔を愛するのよ。だって彼は力があるもの。彼のことを信じているってことがわかれば、彼はいいお返しをしてくれるわ。これまでわたし、彼にいいお返しをしてもらったことがあるの。たとえばメンフィスのダンス学校でのときがそうだった……いつも悪魔を呼び出して、毎年の公演会でいちばんいい役がもらえますようにってお願いしたの。こんなこと常識よ。だってイエスは子どものダンスになんて関心ないもの。それでね、ついこのあいだも悪魔を呼んだところなの。わたしをこの町から出してくれるのは彼だけだもの。ほんというとね、わたし、この町に住んでいるというわけではないの、正確にいうとね。だってわたしはいつもどこか他の町のことを考えているんだから。その町ではどんな人でもみんなダンスしているの。町の人は通りでダンスをする。なにもかも、誕生日の子どもたちみたいにきれいなの。わたしの大事なパパにいわせると、わたしは空に住んでいるんですって。パパだってもっと空に住んでいたら望みどおりにお金持になれたのよ。パパは困ったことに、自分で悪魔を愛さずに、悪魔のほうにパパを愛させてしまったの。でもわたしはその点では頭がいいから大丈夫。二番めにいいことが一番めになることもあるってわかっている。この町に引越してきたのはそれが二番めにいいことだったから。でもわたしここでいつまでもくすぶっているわけにはいかないから、二番めにいいことを始めるわ。……」」
トルーマン・カポーティ「誕生日の子どもたち」)