( ゚Д゚)<無聊必須

「作家たちがインスピレイションがわくのを待っていたことはないと書いているのを、私はいつも読まされています。彼らは雨が降ろうが晴れていようが、宿酔だろうが腕を折っていようが、毎朝八時にデスクにすわりこんで、定量を叩き出すのです。どんなに頭がからっぽでも、機知がにぶっていても、インスピレイションなどにはかまっていないのです。私は彼らに感嘆のことばをささげ、彼らの作品を避けるように気をつけます。
 私のことをいえば、私はインスピレイションを待ちます。ただし、そういう名で呼ぶ必要はありません。どんなにわずかでも生命を持っている著作はすべてみぞおちで書かれる、と私は信じます。それは疲労をもたらし、肉体を消耗させるという意味では重労働です。精神的努力という意味では労働とは言えません。重要なことは、一人の職業作家が書くことのほかに何もしない時間が、すくなくとも一日に四時間なければならぬということです。書かなければならないのではなく、書く気持が起こらなかったら、書こうとしてはならないのです。窓から外を眺めても、逆立ちをしても、床をのたうちまわってもよろしいが、他の積極的な仕事、何かを読んだり、手紙を書いたり、雑誌を拾い読みしたり、小切手に署名したりすることはいけません。書くか、何もしないかです。学校で規律を守らせるのと同じやるかたです。生徒たちに規律を守らせれば、彼らは退屈をさけるためだけでも何かを学ぶことになります。このやりかたでうまくいくのです。二つのきわめてかんたんなルール。A、書かなくてもよいこと。B、ほかのことは何もしないこと。あとはしぜんにうまくいきます。」
(D・ガーディナー&K・S・ウォーカー編『レイモンド・チャンドラー語る』)