( ゚Д゚)<ガッカリ偉人伝

「それにしても作家とはいったいなんだろう? 作家になったからといって、それがどうしたというんだろう? ごりっぱな後光だ! 彼が思い浮かべるのはがっかりするだけの伝記の数々だった。マラルメはあれほど美しい夢にとりつかれており、十六歳ごろの彼はもっとも高貴な血筋のプリンスとして崇められたものだったが、実際はとるにたらぬ教師であり、こと女にかんしては別段どうということもないドイツ生まれの子守り女とベッドをともにし、ひたすら懇願したあげくやっと結婚に漕ぎつけるありさまだった。死んだような地方都市の、まるで牢獄のような色の中学校でほんの小物として味気ない暮らしを送り、被雇用者の食堂で食事をとり、日曜日ともなればアルパカの上着を着こんで郊外のボート遊びに興じ、二十年ものあいだ、自習監督の机と、味気なく色あせたおよそくだらないふとっちょのあいだを行ったり来たりしながら、宝石をちりばめたヘロディアスの胸と腹の細密描写に励んだもののついに書き上げるにいたらず、ときには一人前百スーの宴会のための、韻だけは踏んだ短詩を書いたりして自分の栄光を育てていた。崇高ではあるがなげかわしい兄弟ともいうべきあの不幸なボードレールのほうは、安ホテルを物乞いしてまわり、ほんの三ルイの借金につきまとわれ、法定後見人と梅毒を引きずる生涯だった。それに、もっとも壮大かつ純粋な思想的英雄、とはいえグロテスクな口髭を生やした小男のなかにみわけなければならないニーチェその人にしても、スイスのちっぽけな家族ペンションのひよわで孤独な客であり、血の気もない女教師たち、年老いたイギリス女たちと向き合いながら、下宿屋の食卓でがつがつ食べ、つぎをあてたつづれ織りの袋につっこんだ『ツァラトストラ』をもち歩き、人にはかんたんにだまされ、こと女にかんしてはこっけいなほど初心だった。」
(リュシアン・ルバテ『ふたつの旗』)