( ゚Д゚)<若い作家志望者への手紙

「フェイバー社の申し入れを受け容れることについては、率直にいってぼくはきみの考えに賛成しかねます。理由は、最悪の方便にすぎないということに尽きます。ああいう論理、ああいう態度ではしてやられてしまいますよ。彼らの論理によれば、きみは順応しなければならない──彼らが出版界を支配しているのだから。だが、きみがそんな条件はいやだといって自分の好きなようにする決心をすれば、きみの本を出してくれる人は見付かりますよ。しかし、ともかく、きみがフェイバー社と永久に縁がなくなってしまうかどうかなんてことは問題じゃない──それは彼らの問題なんです。きみの問題はきみ自身の文学的良心ということです。きみにあの作品を書かせたひと握りの信念に、きみは全面的に依存しなくてはいけない。頑張り通して、世間に認めさせてやるんですよ。フェイバー社等々は駄目でしょう。だが、だしぬけに思いもよらぬ人が現われ、期待もしなかった事態が生ずるものなんです。それはぼくかもしれない! いいかえれば、ぼくの遠慮のない忠告を許してほしいのだが、きみはふた股をかけてはいけない。きみはきみの行為に責任をとらなくてはいけないんですよ。
 仕事に金はつきものなのだから、金を稼ぐために何かしなくてはならない──そういう考え方は大ていの場合自分自身に対する巧妙な言い訳にほかならない。そんな金などはなくたっていつも何とかやっていかれる──ない方がうまくいくかもしれない。本当に養いになることは、ただひとつ、自分のしたいことだけをすることなんです。それ以外はすべて愚行、荒廃、時間の浪費にほかなりません。天使がきみの導きとなってくれますように。」
(『ヘンリー・ミラーロレンス・ダレル往復書簡集』)