( ゚Д゚)<Japanese Afterglow

「着物。着物は喉もとからくるぶしまで彼女を覆い隠している。花を飾る仕草のように女性らしく、子供をあやす仕草ほどに女らしく、手は袖に隠して、壊れていない聖餐杯の形のつつましさが覗くだけで、そうして彼女の女性らしさを見事に表している。逆に、手をむき出しにすると、彼女の哺乳類的オンナを見せびらかすだけである。バルコニーの窓から、白い手をさっと一振りして放り投げられた深紅色の薔薇のように、それ自体の不謹慎さをひけらかすつつましさである。それ以上に不謹慎なものはない、と言えるほどのつつましさであり、それ故に、女性の最も貴重な持物なのであり、命を賭しても守るべきものである。


 忠誠。ブラウスとスカートで洋装すると、日本の女性は、ただのずんぐりした特徴のない若い女性にすぎないのだが、着物を着て器用にバランスよく素早く軽快に歩くと、彼女もまた、女性らしい魔術のあの国民的遺産を分かち持つことになる。もっとも、彼女はそれ以上のものを持っている。つまり、この国の女性たちは身につけているものなどによる印象とは全く別の、もう一つの特質を分かち持っている。その特質とは、忠誠、貞節、誠実であり、これは報酬をあてにして行なうものではないが、少なくとも報酬が全くないわけではないと期待してもいる。彼女は私の言語を話さないし、私も彼女の言語を話さない。それなのに、二日も経つと、彼女は朝の光とともに目覚める田舎者の私の習慣を知り、毎朝私が目を開けると、バルコニーのテーブルにコーヒーの盆がすでに用意されている。彼女は、私が散歩から帰ってさわやかな部屋で朝食をとりたいのを心得ている。そしてその通りにしてくれるのだ。部屋は一日のために整えられ、テーブルはセットされ朝刊は用意されてある。彼女は一言も話さないで、私が今日洗濯してもらう衣服がない理由を尋ねるし、また一言も発しないでボタンを縫いつけたり靴下を繕ったりする許可を求めるのだ。彼女は私のことを他人に話す時は、私を賢人で先生と呼ぶが、実は私はそのいずれでもないのだ。彼女は、私を客人としてもてなすことを誇りにしている。さらに私がその誇りに値するための努力をし、礼儀を尽くしてその誠意に応えようとしていることを喜んでくれているよう、私は内心念じている。この国には、たくさんのいい加減な忠誠もある。だが、ほんの少しの忠誠でも無視するには余りに貴重なものである。」
(フォークナー「日本の印象」)