( ゚Д゚)<恋に朽ちなむ

「マーシャ (床をのべながら)そっとして置いたげてよ、ママ。
ポリーナ (トレープレフに)これで、なかなか好い子なんですよ。(間)女というものはね、コースチャ〔トレープレフ〕、優しい目で見てもらいさえすりゃ、ほかになんにも要らないものよ。わたしにも身に覚えがあるけど。


   トレープレフ、デスクから立ちあがり、黙って退場。


マーシャ ほら、怒らしちまった。うるさくするからよ!
ポリーナ わたしはお前が不憫なんだよ、マーシェンカ。
マーシャ 有難い仕合せだわ!
ポリーナ お前のことで、わたしは胸を痛めつづけて来たよ。すっかり見てるんだものね、みんなわかってるんだものね。
マーシャ みんな、ばかげたことよ。望みなき恋なんて、小説にあるだけだわ。くだらない。ただ、よせばいいのよ──甘ったれた気持になって、待てば海路の日和だかなんだか、ぽかんと何かを待っている、そんな態度をね。……心に恋が芽を出したら、摘んで捨てるまでのことよ。うちの人を、ほかの郡へ転任させてくれるって話になってるの。そこへ移ってしまえば、──きれいに忘れるわ……胸から根こぎにしてしまうわ。」
チェーホフ「かもめ」)