( ゚Д゚)<文学アレルギー

「ハイネマンは非常に親切でした。すこしも訂正の要求をしません。九月か十月、最良の季節に出版の見込み。印税の契約書に署名し、次の小説を同社に渡す約束をしました。ほしいのかな? この文学上の取引は僕を腐らせましたよ。あげくの果てが、僕は自信を失い書くのがほんとにいやになりました。「ネサミア」の原稿を見るのもムカムカするほどだということは、きみには分かりますまい。ところで、小説の題名を変えねばならないのだが。僕はこころの底から、運命が僕に「作家」という焼印を捺さなかったらならば、と思います。作家なんて胸くその悪い商売ですよ。「ジークフリート物語」をいい作と思うかどうか、知らせてくれませんか。僕は急速に、あれには自信をなくしかけているのです……
 僕が自分の宿命を嘆いているのではないことは確かです。ただ文学界というやつが、特別にいやらしい、けれども強力な世界だと、言っているだけなんです。文学的要素というやつは、美しい国土のもとの不愉快な地下層のように、生命のあらゆる下層に浸透し、生長の根源にしがみつくのです。ああ、それがいやなんです! この宿命から解放されたい……」
D.H.ロレンス「ヘレン・コーク宛書簡」)