( ゚Д゚)<ナルシシズムの詐術

「注意すべきことに、フロイトはナルシス神話を無批判的に読み、この神話の表面的な意味を単純に採用して、「ナルシシズム」を発見し、またそう名づけている。その表面的な意味は、分身の暴力的な相互関係性、およびその相互性の暴力的な否定、そして模倣による欲望の隠れたメカニズムを、一度ならず、巧みに覆うことができるだろう。鏡のテーマが確かに意味し、そしてこの事実自体が覆い隠していると思われるのが、そのメカニズムである。
 自分以外の誰かを媒介として自分を欲望するのでないかぎり、誰もけっして自分自身を欲望できない。コケットリーとよばれているものはまさしくそれにあたり、通例行なわれているように、ナルシシズムの鍵によって解釈しないようにする必要がある。ナルシシズムがコケットリーを歪曲してしまうのは、逆説的かつ本質的な他者の役割を全然考慮していないからである。ナルシシズム的なコケットリーの解読は常識の水準にとどまっており、常識はほとんどいつも欲望の代弁者である。たぶんこの理由によって、フロイトが解釈したような意味においてつまり完全に神話的な意味において、ナルシシズム的なコケットリーの解読、それに一般的にナルシシズムがわれわれの言語と習俗にあれほど巧妙に入り込んだのである。」
(ルネ・ジラール『地下室の批評家』)