( ゚Д゚)<Girls Be Terror・2

「このとき突然、彼は柱廊の四隅の一角を曲がりかけて飛びすさった。面前六歩ほどの距離、かなりの高さのところの毀れた壁の上に、ここの灰のなかで死を迎えた少女たちの一人がすわっていたのである。
 いや、そんなばかな。それは理性が承知しなかった。眼も、彼のなかにあるなにやら名付けようのない別のものも、それをはっきり認めた。グラディーヴァだった。いつもなら階なのが、石の廃墟の上にすわっていて、ただかなりの高さのところにいるものだから、かわいらしい踝関節まで砂色の靴をはいてぶらんと垂らした細い足が服の縁からむきだしに見えた。
 ひとまず本能的につと動いて、ノルベルト・ハーノルトは二つの柱の間を庭園空間に逃れ出ようとした。三十分前からこの世でいちばん怖れていたものが、いきなり闖入してきたのである。明るい眼をし、彼の思うよう、その下にいまにも嘲笑にはじけそうな唇を持ったそのものはじっとこちらを見つめていた。だが嘲笑にはじけることはなく、その唇からはいつも通りの声がおだやかに聞こえてきた。「外に出ると雨で濡れるわ。」
 はじめて雨が降っているのに気がついた。それでこんなに暗いのか。雨が降るのはポンペイの外でも中でも、明らかにあらゆる植物の成長に役立つ。しかしそのために一人の人間までもな余沢に与かれると思いなすのは、どこか滑稽さがつきまとった。そしてノルベルト・ハーノルトがいま死の危険より怖れているのは笑いものになることだった。そこで彼は思わず逃げ出そうとする試みを捨て、なすすべもなくその場に棒立ちになり、いまやいくぶん苛立ち半分のように軽くぶらぶら揺れている相手の両足をふり仰いだ。しかしそんなものをいくらながめても、頭がすっきりして相手に答える言語表現が出てくるわけがない。そこで、きれいな足の持ち主のほうがまたもやことばを発した。「先刻は邪魔が入ったわね、なにか蠅のことを話したかったみたいだったけど──私のつもりでは、ご当地では学問的研究をしているとばっかり思ってたのに──それともあれは、あんたの頭のなかの蠅のことだったのかしら。私の手の上の蠅を捕まえて殺して、それで運が向いてきて?」」
(ヴィルヘルム・イェンゼン「グラディーヴァ」)