( ゚Д゚)<anticosmology

「宇宙はわれわれにとって死んでいる。いかにしたらそれを蘇生せしめうるであろうか? 「知識」は大陽を殺しさり、黒点をもったガス状の球体と化し、さらに月の生命を奪い、天然痘のごとき死火山の噴火口がぽつぽつ見える死んだ小地球と化した。さらに、機械は地球を殺し、人間がその上を旅行する多少でこぼとな表面と化した。こういう現状にあって、われわれはいかにして、名状しがたい歓喜でわれわれの心身を満す魂の天体の大いなる軌道を回復すべきであろうか? いかにしてアポロを、アティス、デミーター、パーセフォンを、そしてディスの広間を取り戻し、いかにして宵の明星ヘスペラスを、あるいはまたペテルギースを仰ぐべきであろうか?
 これらのものを取り戻さねばならぬ──これらこそわれわれ魂、人間の大いなる意識が生きている世界にほかならぬからだ。それは理性と科学の世界、月が死せる土塊にすぎず、大陽が斑点のある多量のガスにすぎぬ世界、それは抽象された精神の居住する乾燥しきった不毛は小世界である。人間の小意識の世界であり、それはわれわれが自分のけちくさい孤独において知る世界である。われわれが自己とは無関係に、あらゆるものは孤立しているのだというけちくさい前提に立って世界を知るとき、われわれはこの小世界をしか知りえぬのである。それに反し、われわれ自身と一体なるものとして世界を知るならば、大地はヒアシンスのごとく、あるいはプルトー的な下界そのものとなり、われわれの心に歓喜がともるとき、月はわれわれに肉体の贈り物を与え、あるいはまたひそかにそれを奪いさるものだということがわかる、さらに、母獅子が仔獅子を舐めるように人間を愛撫し大胆にするかとおもうと怒り狂った赤獅子のごとく猛然と距を開いて人間に襲いかかる金の大獅子、あの陽が喉を鳴らす音がわれわれの耳に聴こえてくるだろう。」
D.H.ロレンス「『チャタレイ夫人の恋人』にことよせて」)