( ゚Д゚)<アブサロム属性

「前日の晩になると、牧師がはいってきた。
「あなたとともに祈らせてくれますか?」と彼は言った。
「いいさ」とポパイは言った。「やりな。おれには気にしねえでな」
 牧師はポパイが寝ころんで煙草をふかしている簡易ベッドの横にひざまずいた。しばらくするすると牧師は彼が立ちあがって部屋を横切り、またベッドに戻ってくるのを耳にした。牧師が立ちあがったとき、ポパイはベッドに寝ころんで煙草をふかしていた。牧師は彼の背後、さっきポパイが動くのを耳にした方角を見やった。そこには十二個の四角の印が、壁の下ぞいに同じ間隔で続いていた。まるでそれは燃えさしのマッチでつけられたかのようであった。そのうち二つの四角のなかには、きちんとした幾列かになって煙草の吸殻が並んでいた。三番目の四角のなかには二つの吸殻があった。牧師は監房を立ち去る前、ポパイが立ちあがってそこへ行くのを見まもった。ポパイはさらに二つの吸殻をもみつぶし、他のものの横に丹念に並べていた。
 五時過ぎるとすぐに牧師が戻ってきた。あの四角の空間はどこも、最後の十二番目を除いていっぱいになっていた。最後の十二番目もその四分の三までは吸殻が並んでいた。ポパイはベッドに寝ころんでいた。「支度ができたのか?」と彼は言った。
「いや、まだです」と牧師は言った。「祈るように努めてごらんなさい」と彼は言った。「なんとか努めてごらん」
「いいさ」とポパイは言った──「さあ、やりな」牧師はふたたびひざまずいた。彼はポパイがまたも立ちあがり、床を横切っていってまた戻ってくるのを耳にした。
 五時三十分に看守がやってきた。「これを持ってきたよ」と彼は言い、鉄格子の間から黙って握り拳を突き入れた。「あんたが渡した百ドルのおつりだよ、あんたは二度と──ここへ持ってきたよ……四十八ドルあるよ」と彼は言った。「ちょっと待った、もう一度数えよう。どうも細かいところまで言えんのだが、とにかく買ったものはわかってるんだ。受取りはちゃんとみんな……」
「とっとけよ」とポパイは動かずに言った。「おはじき玉でも買いな」
 六時に迎えが来た。牧師がポパイの肘に片手を当てて付き添っていった、そして絞首台の下に立って祈りはじめ、その間に彼らは彼にロープを巻きつけた。ロープをポパイのなめらかに油でなでつけた頭ごしにかぶせるとき、その髪を乱した。両手は縛られていたから、彼は頭をぐいと振りはじめた。髪が前に垂れ落ちるたびに頭を振っていて、その間も牧師は祈りつづけ、他の者たちは各自の位置にいて頭を垂れて身を動かさなかった。
 ポパイは小刻みにその首を前に伸ばして振りはじめた。「おい!」──その声は低く続く牧師の声を鋭く断ち切った──「おい!」保安官が彼を見やった。ポパイはその首を振るのをやめていて、いまはまるで頭の上に卵を一個のせて落すまいとするかのように、じっとこわばった姿勢だった。「おれの髪の毛をなおせ、おい」と彼は言った。
「いいとも」と保安官は言った。落し穴の足蓋をはねあけながら、「ああ、なおしてやるとも」」
(フォークナー『サンクチュアリ』)