( ゚Д゚)<子供人間

「池上線の電車にのってきた、濃紺の地にブルーの絣の着物をきた女のコは、ぼくとおなじ雪ヶ谷大塚の駅でおりた。
 そして、改札口をとおるとき、定期をだした。ちいさな鈴がついた、赤い定期入れで、ぼくは、その日が日曜日なのをおもいだした。この女のコは、おなじ池上線の電車で、蒲田かどこかにお勤めにかよっているのだろう。
 ……
 ブルーの絣の着物の女のコは、改札をでると、カタコト、下駄の音をさせて、足をはやめた。
 駅の改札口を出ると、自然に足がはやくなるというのも、若い女のコらしい。また、下駄の音が、カタコト、いくらかいたずらっぽくひびいても、けっして、自信のあるようなあるきかたでないのも若い女のコっぽい。
 女も、自信があるようになっちゃ、おしまいだ。自信がなくて、すこし、きょろきょろし、そして、なにがおかしいのか、ひとりでクスッとわらって、舌をだす。こっちは、それを見て、ため息なんぞをついている。」
田中小実昌「こんな女のコには思わずタメ息が出てしまう」)