( ゚Д゚)<始める前から負けないためには

「ダレル君、よくきき給え。まだ絶望してはいけない。勇気があるならば、やりたいことを飽くまでやり遂げなければならない──文学の話をしているんですよ。きみが持ち堪えることができるならば(できるとぼくは信じているが)書きたいことだけを書きたまえ。ほかのことはやってはいけない。もしきみが有名になろうなどと思いさえしなければ。人びとはきみに小便をひっかけるかもしれない。だから、まず言いたいことを言いたまえ。かならずしも猥褻をすすめているわけではない。人にはそれぞれはたらかとやかく言われてもびくともしない自分なりの生き方とか自分なりの表現の仕方というものがあるんです。妥協は不毛だし、決して満足をもたらさない。きみにはいつも百人の読者がいるだろうし、その百人の読者が趣味と見識を備えているとしたら、それ以上何を望むことがあろうか。きみが絶対的に正直であることを選ぶとしても、それはむつかしいことですよ。表現とはきわめて自然なもの、神の与え給うたもののように思われる──しかしそうではないのだ。それは、自分を発見するための生涯の闘いなんですよ。セザンヌ、ヴァン・ゴッホ、ゴーガン、ロレンスのことを考えてみてほしい。ドストエフスキー、あるいはティティアンのことを考えてみてほしい。ぼくは自伝的な記録を読むのが好きです。実にいろいろなことを教えてくれる。長くなりました。」
(『ヘンリー・ミラーロレンス・ダレル往復書簡集』)