( ゚Д゚)<リスペクト禁じ得ない

「武智 ……
 これを逆にいえば、テレビの俳優と歌舞伎の俳優とが同じ舞台で芝居をした時に、テレビの俳優の方がうまいことがあるわけですよ。というのは、テレビ俳優というのは歌謡曲と同じで何百万人の中から選び出されてきて、非常に才能のある人であるわけですよ。歌舞伎の俳優なんかは何百人の中から選ばれただけに過ぎないから、ただつき合せてみれば、テレビの役者のほうがうまいですよ。
 だけどそれでいてテレビの役者が尊敬されないで、歌舞伎の役者が尊敬されるということはやはり尊敬される何かを持っている、あるいは尊敬に値いすることをやってるからだと思うんですね。
 僕は今の歌舞伎役者の精神の中に、やはり、尊敬されなければならないという精神が欠けてるんだと思うです。自分の間尺に合わせて芸をやってしまうところがあるんですね。ほんとうの伝統演劇というのは、自分がやれないことでもやらなきゃいけないわけでしょう。自分のやれるところに引っぱりおろしてやるんだったら、テレビの俳優と変りないんでね。やはりそこに一線を画するという点は、尊敬されようとする精神だと思いますね。
三津五郎 それが一つ間違えると事大思想に結びついちゃって、えばり出されても困るけれども……。尊敬されるということは、もっともっとへりくだらなきゃいけないんでね。それも、へりくだるということが対社会的でなく、精神的にへりくだらなきゃいけないんで、世の中これでごまかせると思ったらダメなんでね。
武智 自分の間尺に合わした芸ではダメだということですね。」
坂東三津五郎武智鉄二『芸十夜』)