( ゚Д゚)<生命感覚的身体

「イギリスの神経学者ヘンリー・ヘッドは触覚をプロトペイシックとエピクリティカルとの二つに分けました。プロトペイシックは原始感覚的と訳しましょうか。二十世紀の初めのヘンリー・ヘッドは自分の触覚神経を切断しまして、どちらの感覚が早く再生するかを調べ、原始感覚的なものの再生が先で二つは別であることを証明しました。エピクリティカルというのは皮膚の上で、目をつぶってコンパスの両脚を立てた時にその感覚は何センチであるかを言い当てたり、身体の皮膚に絵を描いた時に、それがどんな絵であるかを言い当てたりする能力です。つまり図式を感受し、物理的距離を認知する触覚がエピクリティカル。全体として漠然と感じる触覚がプロトペイシックです。二つは神経伝導路が全く違います。エピクリティカルな神経感覚が分布せず、プロトペイシックな触覚だけがあるところは男女とも性器の先端です。そこでは全く生命感覚、原始感覚的なものが一体として灼熱しうるのです。口腔もプロトペイシックな感覚の方が主ですね。歯や舌はどの辺が痛いのかなかなかわからないでしょう。
 嗅覚本位の身体、あるいは味覚、運動感覚、あるいは口腔感覚と外部運動感覚もあり、内臓感覚もあり、それから「平衡感覚的な身体」というものもある。犬は嗅覚的な身体像がわれわれよりも発達しているでしょう。それに対して、人間は視覚的なものが発達していますが、このことは強調されすぎているのかもしれません。」
中井久夫「身体の多重性」)